開通式

「その歳まで必要じゃなかったなら、この先もきっと要らないんだよ」

何の話をしていた時だったかは忘れたが、ある人の発したその言葉に、妙に納得して色んなことに開き直ったわたくしに、数年後こんな日が来ようとは、ついぞ思いもしなかった。

耳に 穴を開ける。

別に北陸新幹線開通に合わせたわけではない。

イヤリングを付けていたわたしにとって、ピアスのデザインの方が可愛らしくバリエーションに富んでいることは、前々から大変不満であったものの、体に金属が、しかも貫通するなど考えただけで顎の下から肩甲骨辺りがぞわぞわし、気が遠くなる程で、生涯ピアスはしないものと自ら信じて疑いもしなかったのである。
それが突如、開けますとなった理由としては・・

普段イヤリングを付けていて、たまに大きめのものや、絶対無くしたくない!という大事なものをする時は特に、また、本当にピアス向きだと言われる、見るからに金の入ってこなさそうな薄い耳たぶのせいなのだろう、頷いたりしていると勝手に留め具のネジが緩んで、イヤリングが落ちることがしばしばあり、落としてなるものかとばかりにネジをぎゅっとしていたら、耳たぶに血豆が出来るようになったのである。
あ、これはもうおえんかも と思い始めていたことも、決心させる一因であったことは間違いない。
また、わたしはドラマや映画などの時代劇で、武士や女御などの耳に穴があるのがものすごく嫌いで非常に興醒めするのだが、考えてみるに、おそらくわたしの人生この先、時代劇への出演オファーの可能性は限りなく低そうなので、まあ開けても支障はあるまいと判断した。
あ、いけんと思うたら放っときゃ塞がるんじゃけん、まあえっか というのがダメ押し。

いったん決めるとさほど迷わない方ではある。
折しも勝山のおひなまつり期間中。丁度作家さんが来られていたので、ひのき草木染織ギャラリーで購入したイヤリング5つ程の金具の取り替えをお願いにあがる。「ピアスにしたの?」「これから開けます」この会話を何度し、何度笑われたか。

更にその日、少し前にピアスの可愛さに見とれていたわたしに、にやっとしながら「開けたげましょうか?」と言ってくれた方に、「開けてもらえませんか?」と頼んだところ、穴を開ける器具・最初に付けておくためのピアスが必要なこと(それはそうだ)、そして、「冷やすと痛うないとか言いますけど、 痛いですよ」ということを聞き多少怖気付いたが、病院でも開けられると教えられ、初めてのことじゃし安心安全を考えて、その方法を選ぶ。

いつ行くか。大安でしょう。なぜってだってこわいんだもの。すがりますとも、ラッキー要素。雨が降ろうと行きますよ。
ということで、覚悟と怯えに挟まれて、両肩組んで病院へ。
受付でひと通りの説明を受け、ファーストピアス(というのだそうだ。きゅっとなるような響きだ。後ろが尖っている。穴を開けると同時にそのままピアスとして使えるもの。ちなみにひと月外してはいけないのだという。びっくりするではないか。早々に金具替えちゃって、ちょっと恥ずかしいではないか。)を選び、しばし待機。
診察室へ呼ばれ、大変お優しく親切な女性に、施術方法や注意事項を懇切丁寧に説明いただき、穴を開ける場所を決める。
当然、それも充分想定して、覚悟を決めて参ったのではありますが、まあ一応最終確認というやつですよ。
「あの・・・・・・・、痛いですか」。
やはり一瞬痛いかもしれないし、そのあと多少痺れた感じがするのと、「開ける時耳元で割と大きな音がするので、びっくりされるかもしれません。 採血とか、あまり得意ではないですか?」「・・・・はい。」(非常に。ある面接の際必要だった血液検査を断った程)
女性の先生が来られ、いよいよその時。左耳に、引き金の付いた、まさに銃の如き器具をセット。
先生:「3・2・1で開けますね」シロ:「・・・はい。」先:「大丈夫ですか?」ナースさん:「ちょっと採血とか苦手でらっしゃるそうです」先:「力が入ってると痛いですから、力抜いてくださいね」シ:「はい。」(大丈夫。知っとる知っとる 痛い痛い。痛いに決まっとる。わかっとるわかっとる。おっきな音する。わかっとる。)先:「じゃ、いきますよ。3・2・1、はい」
バチン
覚悟ってなんなのだろう。まあ覚悟したって、まるで未知のことなのだから限界があって当然なのだし、しかももうこれって反射というか生理現象というか、もう自分ではどうにもし難いんですけど、音がした瞬間体はビクゥとなるし、痛いのはそりゃ痛かったけど勝手に涙はあふれてくるし、親切なナースさまに心配されるし、先生は困惑の色を隠せないし、ええ歳して耳に穴開け来て痛うて泣きょうりゃ世話ねえわいと思われているに違いないし、不可抗力なのだが自分でも情けないし恥ずかしいし、先:「大丈夫ですか?右も開けて大丈夫ですか?」シ:「大丈夫です、お願いします」涙を溜めながら言われてもなあという感じだろうし。
無事(?)両耳穴が開き、ナースさんに渡されたティッシュで目を拭いながら、装着されたファーストピアスを鏡で確認。「いい位置に付きましたね」。最後まで優しさを与えていただく。
疲れ切って待合の椅子に沈み込み、施術後の注意事項を思い出していた。
『痛い時は我慢せず、すぐに医師に相談してください』
今痛いのですが、どうしたらいい。
耳は勿論、頭から首筋からほっぺの辺りから、これはとても痺れなどではない、頭部が痛みに支配されている感じ。
なんぼわたしの耳たぶが薄いとて、棒がいっぽん貫通したというのだから、痛くないわけはないのである。自ら大怪我をしたと同じことなのだ。それも重々承知の上で参ったつもりだったのですけど。
今行ったら怒られるだろうな。いつの時点で痛かったら、相談してもよいのかな。どのくらいの痛さだったら、痛いと言ってもよいのかな。痛みの程度サンプルがあればよいのにな。
結局この日は、痛みを我慢して帰宅した。

 

鏡で見てみる。
ああ、したのだなあ ピアス。ファーストピアス、可愛いなあ ピンク。痛いなあ 耳。
誤解を恐れますけど言いますけど、なんだろう  不良になった気分。
随分遅れてきた不良だけども。
不良になるって、 大変だなあ。

 
 

 

胃中の春

母とじゃが芋を植えたあと、よもぎが沢山出ているのに気付く。
出始めのいちばんやわらかいとき。
摘んでいるうち、あ よもぎ餅作ろうと思い立って、本格的に摘みにかかる。そのうち別の畑を機械で耕してくれていた父が戻ってきて、そこにゃあふきのとうがあろうが と、ふきのとう探しも始まる。
そうなると、あ 天ぷらしよー!と思い立つ。やったことないけど、よもぎも天ぷらにしてみよう。

果たして、初めてのよもぎ天ぷらは大変美味しくて感動。ふきのとうは言うに及ばず。
よもぎ餅も作り、春を満喫したのでありました。

     
今日の
刺繍

    ボタン      直径約4cm

 

思いがけないケミストリー

かつて布団袋を作るのに使っていたのであろう、オレンジに大きな赤いバラが描かれた布を買い、長いスカートにしていたのだが、そのスカートを洗濯機で回したところ、水が赤くなり、白いタオルがピンク色に染まってしまった。
まあえっか と使っていたが、この日、テーブルクロスにしている黄緑色の大判の布を洗ったところ、今度は水が黄緑になり、タオルがことごとく緑になった。そんな中、以前ピンクになったタオルが、元の白とはいかないまでも、生成くらいに戻ったのである。

ピンクに染まり、緑に染まって生成になる。
日常に化学を見た。

それより、色物分けろよというお声、   ごもっともです。

     

 

 

 


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