スパイシーな人生を

きゅうりが1度に数10キロ採れていた頃は、祖母が大量の辛子漬けを作り、冷蔵庫がいっぱいになったものである。
また、母の作る茄子の辛子漬けが滅法好きで、茄子が沢山採れだすと、努めて可愛げのあるように、作ってほしいなあとお願いをする。
今までわたしにとって辛子漬けは、祖母・母の作るものだったのだが、この夏ふと、きゅうりの辛子漬けを作ってみようと思い立った。

祖母による「きうり辛子漬」のレシピを参考に。辛子のメーカー指定があったが、お店で見てみると、調味料など色々入っているものだったので、辛子のみの、その名も『鬼からし』を購入。
きゅうり1キロに、砂糖120g・塩50g(ちょっと減らす。2掴みくらい)・酒3勺・からし25gとあったがちょっと控えめに20g弱をチャック付きのポリ袋に入れる。
以前、肉などに下味を付けるのに、ポリ袋に材料と調味料を入れ、空気を抜いて真空状態にすると、味がよく染みるというのをテレビかなにかで見た覚えがあったので、チャックを少しだけ閉め残して口を付け、中の空気を吸い込んでからしっかり閉じる。アルコール分を吸ったためにちょっとくらっとする。
冷蔵庫に入れていると、水分が出てくるので時々袋を振って辛子などを馴染ませる。途中、もっとちゃんと真空にしたいと思い、袋を少し開け、口を付けて吸い込んだ 途端、気管が口から出るかと思う程に激しく咳き込み、台所の椅子に倒れ込んだ。あまりの咳に、さっき食べたうどんがリバースするかと思ったが、母の香川土産のうどんなので、なんとかそこはこらえたが、苦しさに涙をにじませ、椅子にしがみついたまま咳き込み続ける。
本来粉がらしというのは、水分を加えて練ることで、その辛味を発揮するものである。きゅうりから出た水分を得て、その力が最大になった状態、つまり最高に辛子の成分が充満した空気を、思い切り吸い込んだわけである。

かつて、生のこんにゃく芋を素手で触り、その手で目をこすって病院に駆け込む人をテレビで見た時や、お寿司屋さんのカウンターに座った外国の方が、お刺身やお寿司を載せる台の隅に盛られた、おろしたてのわさびのてっぺんを箸の先ですくって口に入れ、悶絶する様を目の当たりにし、ものを知らないとは恐ろしいことだと、悟ったように 思っていた自分に、今まさにその言葉を贈りたい。

何歳になっても、知らないことは無尽蔵にある。総てを知るのは大変だし、無理に知ろうとも思わないが、こうして文字通り、体得したこと(痛いことや苦しかったことは特に)は確実に自分の中に残り、きっとずっと忘れないと思う。
その上毎日おいしい辛子漬けが食べられるなら、何も言うことないではないか。

 
     

夏も
元気に


大体どこもだと思うが、7月、茅の輪くぐりとか名越の祓とかと呼ばれる、茅で作られた大きな輪をくぐって無事に夏を越せることを祈願する神社の夏祭りがある。
お参りをした帰りには、茅をもらって、それで小さな輪を作り、玄関に掛けて魔除け・厄除けにする。

今年もその日がやって来て、午後4時頃、日が照りつける中家を出る。神社へ向けて歩き始めてすぐ、ご近所の方が丁度出て来られたのが見えた。だいぶ距離があったのだが、こんにちはとごあいさつをすると、会釈をされた後、立ち止まってわたしを待ってくださっている様子。小走りをしてその方のところまで行くと、「連れがおった」とにっこりされた。いつも穏やかでお優しく、畑のお花もきれいに咲かせておられて、わたしは密かにその方が大好きなのだが、随分歳が下のわたし(あとでその方は80歳になられたと知った)を「連れ」と言ってくださったことが、どう表現したらよいかわからないが、なんだか深く心におちてきた。喉の根元(?)がぎゅーとして、その言葉が胸の中に残って広がっていくような感覚のまま、その方と「暑いですね」とか「雨が結構降りましたね」とか、道中の家のお庭や畑を見ては、これはなんという花なのかとか、ええ具合野菜が大きゅうなってとかと話をしながらお宮まで歩いた。
お札をもらって茅の輪をくぐってお参りをして茅をもらって、帰りは神社で出会ったその方のお友達も途中までご一緒した。
お別れする際、若いけんさっさと行けるのに、とろとろ歩くのに合わせてもろうて悪かったなあと恐縮されたが、とんでもないことである。毎年するように、今年も帰り道に歩きながら作った小さな茅の輪をお見せすると、まあいつの間にと驚かれ、上手に作ってと言ってくださった。

わたしはこういう日常がとても好きだ。
若い人たちと話が合わないのはそのせいなのかなー・・
まあよいけどねー・・

     
思いがけない人生を

用事があって出掛けた帰りに両親宅ヘ寄り、一緒に夕ごはん(蕎麦)を食べた。
食卓の向かいに座った父が言った。

父:おまえは 髪ゅう染めたんか。
しろ:・・え? ・・いや[語尾上げる]。・・??
父:天使の輪が出来とるけん。
しろ:ああ、 はは、椿油。[髪を洗った後につけます]昨日髪切ったばーじゃし。 わたし直毛じゃしな。
母:染めるんじゃったら赤う染めらあ。黒い髪ゅう黒う染めるもんか。[※赤う染める=茶髪にする/わたしは黒い髪が気に入っているので茶髪にする気は全くないが、白髪になったら赤か緑にしようとは思う]
父:いやあ前におまえ 白髪がある言(よ)うたけえ。
しろ:(えっ、)いやあ、あるんで仰山。結構隠れるんじゃけど、かき分けたら仰山あるんで。

白髪があるという話を父にいつしたのだろうか。
そんなことを全く覚えていなかったことと、そんなことを父が覚えていたことに驚いた。
一方で、その話のあと、

母:[急に、いきなり]えっ、あんたあ虫歯があるんか。
しろ:はあ!?
母:あんた、歯医者に行った言うたんじゃないんか。
しろ:言うてないわ!なんのことよ!

約2時間前、わたしが両親宅へ着いた時、庭で水やりをしていた母に告げた行き先を聞き間違っていた上に(CD返しに行ったと言った)、なぜそのタイミングで、何の脈絡もなく突如わたしの虫歯を気にしたのか。

しろ:あるけど多分!虫歯!

色々と両親に驚かされた夜であった。

 

動物達が演奏をするブラスがある。
そのルックスのかっこよさに加え、動物さんとちょっとしたご縁があったこともあり、どうしても観に、基 聴きに行きたくて、上の姪がまだ2歳だった時、姉とそのお腹の中の下の姪と4人で県南の玉野市まで足を運んだ。
オカピが指揮を執る、世界の動物達による金管五重奏と、ウサギの4姉妹による弦楽四重奏をたっぷり楽しみ、姪はウサギの1人と写真を撮ってもらって喜んだ。
その、ズーラシアンブラスと弦(つる)うさぎが、真庭市勝山にやってくる!運転中、告知の横断幕を見た時には、歓喜のあまり叫んでしまった。
母と姉と子供達も行くことに。あと3週間あと10日・・と、わくわくしながら演奏会の日を待つ。前日じじばば宅に泊まりに来ていた小人たちも、ズーラシアンズーラシアンと大変楽しみにしている。
2歳だった姪は今や小学3年生。時が経つのは早いものよとしみじみしながら、当日わっさらわっさら勝山へ向かうと、会場にはどえらい人。関係者でもないのに、とても嬉しくなってしまう。そして、さすがの演奏、子供も大人も大笑いさせる小芝居、基 パフォーマンス。会場に響き渡るインドライオンさんのトランペットにしびれ、司会のお姉さんと他のメンバーがお話ししている時に、反対側の端っこの方で舞台下のお客さんとコミュニケーションを取っているオカピにきゅんとする。下の姪はマレーバクさんが大好き(客席に下りてきた時タッチしてもらえて喜んでいた)、上の姪はうさぎさんのドレスに釘付け。行きがけの車の中で寝こけてしまった小さな甥も、うごうごしながらも最後まで起きていた。プログラムの中には、ハッピーバースデーの曲もあったのだが、折しもこの日は甥の4歳の誕生日。そもそも母が、誕生日祝いに連れて行ってやろうと姉達を誘ったのだが、なんとも豪華にお祝いをしていただいたことであった。
終わってから動物さん達と写真を撮る時間がなかったのは残念だったけれど、みんな(殆ど姉とわたしだが)で楽しかったなー来れてえかったなーと言いながら帰った。また何回でも来てほしいなー。みんなを笑わせたり楽しませることしている方(動物さん含む)を、わたしはとても尊敬する。
子供達と一緒に楽しめたのがいちばん嬉しかった。(下の姪にプログラムのうさぎ4姉妹とマレーバクさん以外の動物さんの顔を鉛筆で塗られていたけれども)

更に、その夜は星が大変きれいで天の川も見え、こんなきれいな星空だったら願い事全部叶ってしまうんではないのと思う程であった。

ああ良いものをみた。
とても素敵な1日でありました。

 
     

 

 

 


Copyright © 2009 matsuda shiro All Rights Reserved